インボイス制度は建設業にどう影響する?対応と請求書の書き方
この記事のポイント
インボイス制度は建設業の元請け・下請け・一人親方で対応が求められる制度で、経過措置の控除割合は令和8年度税制改正により2026年10月から70%、2028年10月から50%、2030年10月から30%と段階的に縮小し、2031年10月以降は控除がなくなる。取引先の登録状況の確認と適格請求書への対応が実務上の要点となる。
「インボイス制度が建設業の取引にどう影響するのか分からず、下請けの登録状況や一人親方との取引継続の可否が判断できない」
こうした疑問に答えます。
本記事の内容
- 元請け・下請け・一人親方への影響
- 経過措置を踏まえた対応手順
- 適格請求書の書き方
インボイス制度は建設業の取引先区分ごとに対応を変えれば乗り切れます。
制度の仕組みと経過措置のスケジュールを理解すれば建設業法や独占禁止法に抵触する不安を抱えずに一人親方との取引を続けられます。ここから具体的な対応手順を解説します。
インボイス制度とは?建設業における基本を解説
インボイス制度は2023年10月に始まった消費税の仕入税額控除に関する新しいルールです。建設業は一人親方や個人事業主との取引が多く、重層下請構造という業界特有の事情もあります。
そのため他業種以上に制度の影響を受けやすくなっており、まずは制度の基本と、建設業でとくに重要視される理由を押さえておきましょう。
そもそもインボイス制度とは
インボイス制度とは、正式には適格請求書等保存方式と呼ばれる仕組みです。買い手が仕入税額控除を受けるためには、売り手が発行した適格請求書、いわゆるインボイスの保存が必要になります。
制度導入の背景には、2019年の軽減税率導入があります。消費税率が8%と10%に分かれたことで、取引ごとの税率や税額を正確に把握する必要が生じ、それを明記した請求書として適格請求書が求められるようになりました。
インボイスには以下のような項目の記載が必要です。
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 発行事業者の氏名・名称と登録番号 | 適格請求書発行事業者としての登録番号を含む |
| 取引年月日 | 実際に取引を行った日付 |
| 取引内容 | 軽減税率対象品目かどうかも明記 |
| 税率ごとの合計額と適用税率 | 8%・10%を区分して記載 |
| 税率ごとの消費税額 | 端数処理のルールに沿って計算 |
| 交付を受ける事業者の氏名・名称 | 請求書の宛先 |
これらの項目が欠けている請求書では、買い手側が仕入税額控除を受けられなくなる点に注意が必要です。
適格請求書発行事業者とは
適格請求書発行事業者とは、税務署長にインボイス発行事業者の登録申請書を提出し、登録を受けた事業者を指します。登録できるのは課税事業者に限られ、売上高1000万円以下などの理由で消費税の納税義務が免除されている免税事業者は、そのままでは登録できません。
免税事業者が登録を受けたい場合は、まず課税事業者を選択する手続きが必要です。登録後は、取引先の求めに応じて適格請求書を発行する義務が生じるとともに、消費税の申告と納税も行うことになります。
建設業では一人親方の多くが免税事業者に該当するため、登録するかどうかの判断が事業の収支に直結します。課税事業者になれば消費税の納税負担が増える一方、登録しなければ取引先から敬遠されるおそれもあり、双方のバランスを見極める判断が求められます。
建設業でインボイス制度が重要視される理由
建設業でインボイス制度がとくに重要視される理由は、業界特有の重層下請構造にあります。大手ゼネコンを頂点に、一次下請け、二次下請けと段階を経て、最終的に一人親方が現場作業を担う構造です。
国税庁の統計をもとにした業界調査では、建設業就業者のうち一人親方が1割を超えるとされ、免税事業者の割合が他業種に比べて高い点が特徴です。大手ゼネコンは一人親方と直接取引することがほとんどなく、実際に対応を迫られるのは一人親方と直接契約する現場に近い事業者になります。
免税事業者との取引が多いほど、仕入税額控除を受けられない金額が増え、税負担が重くなります。そのため元請けや中間の下請けは、取引先の登録状況を確認し、価格交渉や取引継続の判断を迫られる場面が増えています。
なお、免税事業者に対して一方的に課税事業者への転換を強要したり、登録を理由に不当な減額を行ったりすると、建設業法や独占禁止法に抵触するおそれがあります。公正取引委員会のQ&Aによると、建設工事の請負契約には取適法(中小受託取引適正化法、旧下請法)ではなく建設業法が適用されます。取引先との関係を維持しながら制度に対応する姿勢が欠かせません。
経過措置の内容と2031年9月までのスケジュール
インボイス制度には、免税事業者との取引による急激な負担増を緩和するための経過措置が設けられています。免税事業者からの仕入れであっても、一定期間は仕入税額の一部を控除できる仕組みです。
この経過措置は、令和8年度税制改正で適用期限が2年間延長され、控除割合も見直されました。改正前は2026年10月から50%、2029年10月以降は控除なしの予定でしたが、改正後は以下のとおり4段階で縮小していきます。
| 期間 | 控除割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日から2026年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% |
| 2026年10月1日から2028年9月30日まで | 仕入税額相当額の70% |
| 2028年10月1日から2030年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% |
| 2030年10月1日から2031年9月30日まで | 仕入税額相当額の30% |
| 2031年10月1日以降 | 経過措置なし(控除不可) |
2026年10月からは控除割合が70%に下がり、2031年10月以降は経過措置そのものが終了します。免税事業者との取引にかかる税負担は段階的に重くなっていくため、早めに取引先との対応方針を固めておくことが重要です。
元請けの負担がどう変わるかを、免税事業者の一人親方に外注費110万円(うち消費税相当額10万円)を支払う例で計算すると、次のようになります。
| 支払いの時期 | 控除できる額 | 控除できない額 |
|---|---|---|
| 2026年9月30日まで | 8万円(10万円×80%) | 2万円 |
| 2026年10月1日から2028年9月30日まで | 7万円(10万円×70%) | 3万円 |
| 2028年10月1日から2030年9月30日まで | 5万円(10万円×50%) | 5万円 |
| 2030年10月1日から2031年9月30日まで | 3万円(10万円×30%) | 7万円 |
| 2031年10月1日以降 | 0円 | 10万円 |
控除できない額は、元請けの消費税の納付額がその分だけ増えることを意味します。
あわせて、1つの免税事業者などからの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年または事業年度で1億円を超える場合、超えた部分には経過措置を適用できなくなりました(改正前は10億円)。この上限は、2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
なお、この経過措置を適用するためには、区分記載請求書等と同様の記載事項を満たした請求書等の保存と、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨(「80%控除」「7・5・3割控除」の対象であること)を記載した帳簿の保存が要件となります。単に免税事業者と取引しているだけでは自動的に適用されるわけではない点にも注意しましょう。
インボイス制度が建設業に与える影響
インボイス制度は建設業の取引構造そのものに影響します。重層下請構造のもとでは、元請け・下請け・一人親方それぞれの立場で対応の中身が変わるため、まず自社がどの立場にあるかを整理することが欠かせません。
ここでは元請け、下請け、一人親方への影響を順に整理し、あわせて業界で懸念されている偽装請負問題との関係も確認します。
元請けへの影響
元請けにとって最大の影響は、仕入税額控除を受けられる金額が下請けの登録状況によって変わる点です。下請けが適格請求書発行事業者の登録を済ませていれば、これまでどおり消費税の控除を受けられます。
一方、免税事業者のままの下請けから請求書を受け取った場合、経過措置の範囲でしか控除できません。控除割合は2026年9月30日まで80%、2026年10月1日から70%、2028年10月1日から50%、2030年10月1日から30%と下がり、2031年10月1日以降は控除自体がなくなります。
そのため元請けは、下請け一社ごとの登録状況を早めに把握しておく必要があります。国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトを使えば、登録番号から発行事業者であるかを検証できます。
登録状況を確認したあとの対応は、以下のように整理できます。
| 下請けの状況 | 元請けの対応 |
|---|---|
| 登録済み(課税事業者) | 従来どおり適格請求書を受領し、全額控除を適用 |
| 未登録(免税事業者) | 経過措置の割合で控除、登録の意向を確認 |
| 登録予定なし | 価格や取引条件の見直しを検討 |
ここで注意したいのは、登録の有無だけを理由に一方的な取引縮小や代金の減額を行うと、建設業法や独占禁止法に抵触するおそれがある点です。対応は後の見出しで詳しく説明します。
下請けへの影響
下請けの立場では、適格請求書発行事業者として登録するかどうかの判断が経営に直結します。登録すれば課税事業者となり、これまで免除されていた消費税の申告と納税が新たに発生します。
登録しない場合は、元請けが仕入税額控除を受けられない、あるいは経過措置の範囲でしか控除できない状態が続きます。これを理由に元請けから取引条件の見直しを打診されるケースも出てきています。
登録するかどうかの判断では、消費税の納税負担と、取引継続や新規受注のしやすさを天秤にかける必要があります。売上規模が大きく元請けとの取引が事業の柱になっている下請けほど、登録を選ぶ傾向があります。
なお、簡易課税制度や2割特例といった負担軽減の仕組みもあるため、単純に「登録すれば負担が重くなる」と決めつけず、自社の売上規模や経費の構造にあわせて試算することが大切です。
一人親方への影響
一人親方の多くは売上高1000万円以下の免税事業者に該当し、インボイス制度の影響をもっとも直接的に受ける立場です。登録するかどうかの判断は、収入と取引先との関係の両方に関わります。
登録すれば取引先からの仕事の依頼を維持しやすくなる一方、消費税の申告と納税という新しい事務負担が生まれます。登録しなければ事務負担は増えませんが、元請けや下請けから取引条件の見直しを求められる可能性があります。
一人親方が判断する際に確認しておきたい点を整理します。
- 主な取引先が課税事業者か免税事業者か
- 取引先からインボイス登録を求められているか
- 登録した場合の消費税納税額の見込み
- 簡易課税制度や2割特例・3割特例が使えるか
取引先との関係を保ちながら、自身の手取り収入を大きく減らさない着地点を見つけることが、一人親方にとっての実務的な課題になります。
偽装請負問題との関係
インボイス制度は、建設業でかねてから指摘されてきた偽装一人親方の問題とも関係が深いテーマです。偽装一人親方とは、実質的には雇用と変わらない働き方をしているにもかかわらず、社会保険料や労務管理の負担を避ける目的で、会社側が業務請負契約の形を取らせているケースを指します。
労働基準法上の労働者に該当するかどうかは、業務の依頼を断る自由があるか、業務の進め方について指揮監督を受けているか、勤務場所や時間に拘束されているか、他人に業務を代替させられるかといった要素から総合的に判断されます。建設現場では作業内容の性質上、場所や時間が指定されることが多いため、拘束性があるというだけで労働者性が認められるわけではない点に注意が必要です。
国土交通省は、インボイス制度の導入によって偽装一人親方という働き方の脆弱性がより明確になるとの見解を示しています。免税事業者のままでは取引条件の見直しを受けやすくなるため、実態が労働者に近い一人親方ほど、収入面での影響を受けやすくなるという構図です。
元請けや下請けとしては、一人親方との契約が業務請負として適正なものか、実質的な雇用に近い実態がないかをあわせて点検する姿勢が求められます。インボイス対応をきっかけに契約実態を見直すことが、偽装請負の是正にもつながります。
建設業がインボイス制度に対応するためにすべきこと
インボイス制度に対応するためには、取引先の状況把握から法令面の注意点まで、いくつかの手順を順番に進める必要があります。ここでは元請け・下請け・一人親方のいずれの立場でも実践できる、具体的な対応の流れを解説します。
取引先の登録状況を確認する
対応の第一歩は、取引先が適格請求書発行事業者として登録済みかどうかを確認することです。登録済みであれば、これまでどおり仕入税額控除を受けられるため、優先的に状況を把握しておきましょう。
確認方法としては、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで登録番号を入力する方法が最も確実です。請求書に記載された登録番号を検索すれば、発行事業者としての登録の有無をすぐに調べられます。
取引先が多い場合は、確認結果を一覧化して管理すると実務が進めやすくなります。整理の際は次の3点を押さえておきましょう。
- 登録済みの取引先:適格請求書の様式や登録番号の記載漏れがないかを重点的にチェックする
- 登録予定がある取引先:登録時期の見込みを聞き取り、経過措置の期間中は現行どおり取引を続ける
- 登録予定がない取引先:経過措置の控除割合を踏まえ、価格や取引条件を協議する時期をあらかじめ決めておく
登録状況の確認は一度きりで終わらせず、経過措置の控除割合が段階的に縮小するタイミングに合わせて定期的に見直すとよいでしょう。
課税事業者と免税事業者どちらを選ぶか判断する
登録状況を把握したあとは、自社が課税事業者と免税事業者のどちらを選ぶかを判断する段階に進みます。とくに免税事業者である一人親方や個人事業主にとって、この判断は収支に直結する重要な選択です。
課税事業者を選び登録すれば、取引先から仕事を継続して受けやすくなる一方、消費税の申告と納税という新しい事務負担が発生します。免税事業者のままでいれば納税義務は生じませんが、取引先から価格や取引条件の見直しを求められる可能性があります。
判断にあたっては、負担軽減の仕組みも含めて検討することが欠かせません。売上高5000万円以下の事業者が選べる簡易課税制度に加え、インボイス発行事業者となった小規模事業者向けの2割特例という負担軽減措置があります。
2割特例は、2026年9月30日を含む課税期間で終了します。個人事業主は2026年分の確定申告まで、法人は2026年9月30日を含む課税期間の申告までが適用対象です。
令和8年度税制改正で、個人事業主に限り、2027年分と2028年分の申告では納付税額を売上税額の3割にできる「3割特例」が新設されました。法人は3割特例を使えないため、2割特例の終了後は本則課税か簡易課税のいずれかを選びます。
| 対象 | 2割特例 | 3割特例 | その後 |
|---|---|---|---|
| 個人事業主 | 2026年分の申告まで | 2027年分・2028年分の申告 | 本則課税または簡易課税 |
| 法人 | 2026年9月30日を含む課税期間まで | 適用不可 | 本則課税または簡易課税 |
たとえば売上にかかる消費税額が50万円の一人親方なら、納付税額は2割特例で10万円(50万円×20%)、3割特例で15万円(50万円×30%)です。
簡易課税へ切り替える場合は、消費税簡易課税制度選択届出書を提出します。原則は適用を受けたい課税期間が始まる前日までの提出ですが、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間に簡易課税へ移る場合は、その課税期間の申告期限までに提出すれば間に合います。
自社の売上規模や経費構造をもとに、課税事業者になった場合の納税額をあらかじめ試算しておくと、判断の精度が上がります。
適格請求書発行事業者の登録申請をする
課税事業者になり登録を受けると決めた場合は、税務署へ適格請求書発行事業者の登録申請を行います。申請方法にはe-Taxによる電子申請と、書面による郵送申請の2種類があります。
e-Taxでの申請には、マイナンバーカードなどの電子証明書が必要です。申告・申請・納税の画面からインボイス制度の登録申請メニューを選び、必要事項を入力して送信します。
免税事業者が登録を希望する場合、登録を希望する日を申請日から15日以降で指定できます。
国税庁が2026年9月18日に公表した目安では、登録通知までの期間はe-Taxでの申請で約1か月、書面での申請で約1.5か月です。取引先から登録を求められている場合は、余裕を持ったスケジュールで申請しましょう。
登録通知の受け取り方も確認しておく必要があります。e-Taxで電子通知を選べば、登録後の通知データはメッセージボックスの通知書等に格納されます。
書面での通知を希望する場合は、e-Taxのマイページから通知方法を選択できます。
申請そのものに費用はかからず、税務署の窓口へ直接持参することも可能です。書類に不備があると差し戻しが発生し、登録が遅れる原因になります。
記載項目を事前にひととおり見直しておくと安心です。
建設業法・独占禁止法を踏まえて取引先へ対応する
免税事業者との取引を見直す際は、建設業法や独占禁止法に抵触しないよう注意が必要です。公正取引委員会は、免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&Aを公表し、問題になりやすい行為の考え方を示しています。
とくに注意すべき行為は、以下のとおりです。
- 取引上優位な立場を利用し、免税事業者が負担する消費税分を考慮しないまま一方的に著しく低い価格を設定する
- 課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、または取引を打ち切ると一方的に通告する
- 双方の協議なしに、消費税相当額をそのまま取引価格から差し引く
インボイス制度の実施を踏まえて取引条件を見直すこと自体は問題になるわけではありません。免税事業者が負担している消費税分も考慮したうえで、双方が納得できる形で価格や条件を協議する姿勢が重要です。
建設業では、建設業法第19条の3が定める不当に低い請負代金の禁止にも注意が必要です。国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン(第12版)は、同条第1項に違反するおそれがある行為として、次の2つを例に挙げています。
- 元請負人が、免税事業者の下請負人に消費税相当額を含まない契約単価を一方的に提示し、協議を行わずにその単価で積算した額で下請契約を締結した場合
- 工事完了後に下請負人が免税事業者だと判明したため、下請負人が提出した請求書の金額から、元請負人が一方的に消費税相当額を支払わなかった場合
免税事業者であることを理由に一方的な取引終了を告げることも、同様に問題視される行為です。
取引先への対応を進める際は、登録状況の確認結果をもとに、まず対話の機会を設けることから始めるとよいでしょう。価格や取引条件の変更が必要な場合も、一方的な通告ではなく、双方の事情を踏まえた協議のプロセスを踏むことが大切です。
インボイス制度に対応した建設業の請求書の書き方
適格請求書の記載項目を理解したあとは、実際の請求書作成で迷いやすいポイントを押さえておく必要があります。ここでは建設業ならではの記載の注意点、一人親方や個人事業主が請求書を発行する際のポイント、管理を効率化するツールの活用法を解説します。
適格請求書に必要な記載項目
建設業の適格請求書では、発行事業者の氏名や登録番号、取引年月日、税率ごとの金額といった基本項目に加え、工事名や工事場所の記載が欠かせません。実務におけるインボイスの請求書の書き方は建設業の具体的な要件を満たす必要があり、「〇〇邸新築工事」「△△ビル改修工事第2期」のように具体的に書くことで、複数現場を抱える元請けでも処理を迷わずに進められます。
工事名の記載は見落とされやすいポイントであり、記載漏れがあると元請け側での照合作業が滞る原因になります。請求書番号による通し管理も、後から取引内容を追跡する際に役立ちます。
人工費を請求する場合は、数量欄に人数と期間を乗じた数を「人工」という単位で記載し、単価欄には1人あたりの金額を入れます。以下は建設業の請求書で押さえておきたい記載例です。
| 項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 工事名 | 〇〇邸新築工事 |
| 工事場所 | 施工現場の所在地 |
| 数量・単位 | 5人工 |
| 単価 | 1人あたりの日当 |
| 税率区分 | 10%対象・8%対象を分けて表示 |
値引きを行う場合は、値引き後の金額に対して消費税額を計算し直す必要があります。税率ごとの合計額と端数処理のルールがずれていないか、発行前に必ず確認しましょう。
一人親方・個人事業主が発行する請求書のポイント
一人親方や個人事業主が適格請求書を発行する場合、氏名の代わりに屋号を記載しても問題ありません。ただし、住所や電話番号など請求書内の他の情報から発行事業者を特定できることが前提です。
登録番号は「T」から始まる13桁の番号であり、税務署へ登録申請書を提出したのちに通知されます。この番号を請求書へ記載し忘れると、受け取った元請け側が仕入税額控除を受けられなくなるため注意が必要です。
屋号を国税庁の公表サイトに載せたい場合は、登録申請書とあわせて公表事項の公表申出書を提出する手続きが必要です。申出をしなければ、公表サイトには氏名のみが表示される点も覚えておきましょう。
一人親方が課税事業者として登録した直後は、これまで使っていた請求書の様式に登録番号欄が抜けているケースが目立ちます。既存のテンプレートを見直し、記載項目に不足がないか一度チェックしておくと安心です。
請求書管理を効率化するデジタルツールを活用する
建設業の請求書は工事ごとに記載項目が細かく、手作業での作成や確認には手間がかかります。クラウド型の請求管理システムを導入すれば、インボイス制度に対応した書式を自動で反映でき、記載漏れのリスクも減らせます。
あわせて意識したいのが電子帳簿保存法との関係です。2024年1月以降、メールやクラウドサービスで受け取った請求書などの電子取引データは、紙に出力して保存する方法が原則として認められなくなりました。
電子データのまま保存することが義務になっています。
電子データを保存する際は、改ざん防止の措置を取ること、保存データを確認できる環境を整えること、日付・金額・取引先の3要素で検索できることが求められます。クラウド型の請求管理システムには、これらの要件を満たす検索機能や保存機能があらかじめ組み込まれているため、自社で個別に対応を整える負担を抑えられます。
建設業に特化したシステムであれば、工事名や現場ごとの請求書フォーマットを取引先と共通化できる機能も備わっています。法改正のたびに機能がアップデートされる仕組みも多く、制度変更への追従を後回しにできる安心感につながります。
まとめ:インボイス制度は建設業の取引先区分別対応で乗り切れる
インボイス制度は建設業の取引全体に関わる仕組みです。制度の基本、経過措置のスケジュール、元請け・下請け・一人親方それぞれへの影響、そして具体的な対応手順や請求書の書き方まで、本記事で順に確認してきました。重層下請構造を持つ建設業だからこそ、自社がどの立場にあるかを踏まえた対応が欠かせません。
本記事のポイントをおさらいします。
本記事のポイント
- 経過措置の控除割合は2026年9月30日まで80%、2026年10月から70%、2028年10月から50%、2030年10月から30%に縮小し、2031年10月以降は控除がなくなる
- 元請け・下請け・一人親方は立場ごとに判断軸が異なり、取引先の登録状況確認がすべての対応の起点になる
- 登録の有無を理由にした一方的な減額や取引打ち切りは建設業法・独占禁止法に抵触するおそれがあり、協議による対応が必要
自社の立場に合わせて取引先の登録状況を確認し、必要な手続きを一つずつ進めれば、インボイス制度への対応で慌てることはなくなります。制度対応を後回しにせず、早めに準備を整えることが取引先との信頼関係を守ることにもつながります。
建設業の制度改正や現場DXの新着記事は、メルマガでお知らせしています。実務で使える早見表や記入例は、お役立ち資料から無料でダウンロードできます。
インボイス制度 建設業に関するよくある質問
参考文献
執筆者
編集部
Construction DX 編集部は、建設DX・建設テック・業界動向に関するニュースや解説記事を制作する編集チームです。最新の技術・市場・制度・導入事例をわかりやすく整理し、建設業界のDX推進に役立つ情報を中立的な視点で発信しています。
監修者
リサーチチーム
Construction DX リサーチチームは、建設DX市場や最新技術、法制度、国内外の事例を継続的に調査・分析する専門チームです。公開情報や一次情報をもとに内容を検証し、正確性・信頼性の高いコンテンツ制作を支援しています。
関連記事
建設業 2024年問題の抜け道はない?摘発リスクと正攻法対応策
建設業の2024年問題に抜け道はなく、違反は刑事罰の対象。偽装一人親方などの違法リスクと、適正工期交渉やDX活用による合法的な残業削減策を解説。
建設業 2024年問題の罰則は拘禁刑6か月・罰金30万円と回避策
建設業 2024年問題の罰則は拘禁刑6か月以下・罰金30万円以下です。送検や企業名公表への流れと、実務的な回避策をわかりやすく詳しく解説します。
建設業の2024年問題とは?上限規制と対策をわかりやすく解説
建設業の2024年問題(時間外労働の上限規制)の内容・背景・経営への影響と、工期設定・ITツール・ICT活用の具体的な対策を2026年最新情報で解説。
建設業許可の業種追加とは?要件と申請手続き・必要書類を解説
建設業許可の業種追加を解説。専任技術者などの要件、申請の流れと必要書類、手数料や処理期間を整理。区分の選択ミスを防ぎ受注機会を広げられます。
建設業の36協定【上限規制・特別条項・届出の書き方を解説】
建設業の36協定は2024年4月から上限規制の対象に。限度時間・特別条項の締結要件・届出の記載例を、建設業の実務担当者向けにまとめて解説します。
建設業許可の廃業届:提出期限・必要書類・書き方を徹底解説
建設業許可の廃業届は事由発生から30日以内の提出義務があります。届出が必要な5ケースと届出人・必要書類・様式第22号の4の書き方・届出を怠った場合の過料をまとめて解説。