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法定福利費とは?建設業の保険料率・計算方法・見積書記載まで

制度・法対応公開日:最終更新日:

この記事のポイント

法定福利費とは、健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料などの社会保険料の事業主負担分。国土交通省は労務費総額に法定保険料率を乗じて算出する方法を示しており、2026年度・東京都(協会けんぽ)の料率で、介護保険の対象となる40〜64歳の割合を仮に50%とすると、雇用保険・健康保険・介護保険・厚生年金・子ども・子育て拠出金・子ども・子育て支援金の事業主負担は労務費の16.005%になる。見積書では労務費と別枠で内訳明示する。

法定福利費とは?建設業の保険料率・計算方法・見積書記載まで

「法定福利費とは何か、建設業の見積書にどう記載すればいいか分からない。正しく計上しないと赤字受注や社会保険未加入の企業とみなされてしまうのではないか」

こうした疑問に答えます。

本記事の内容

  • 法定福利費の定義と福利厚生費との違い
  • 対象となる保険の種類と料率
  • 建設業における計算方法と見積書への記載手順

法定福利費とは、建設業を含むすべての企業に法律で義務づけられた社会保険料の事業主負担分です。

本記事を読めば、法定福利費と福利厚生費の違いや正しい計算方法まで理解でき、見積書への内訳明示にも迷わず対応できるようになります。ぜひ最後までご覧ください。

法定福利費とは?建設業における位置づけ

法定福利費とは、建設業を含むすべての企業に発生する社会保険料等の事業主負担分です。ここでは定義と建設業での位置づけ、福利厚生費との違いを整理します。

法定福利費の定義

法定福利費とは、健康保険法や厚生年金保険法などの法律に基づき、企業が従業員のために負担する社会保険料等の事業主負担分を指します。対象となるのは健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料、子ども・子育て拠出金の6種類です。

これらは労働者を雇用する事業主に支払いが義務づけられており、任意で選べる費用ではありません。建設業では、労務費に一定の料率を掛けて算出する方法が一般的です。

建設業で法定福利費が重視される理由

建設業では、法定福利費の適正な計上が長年の課題とされてきました。社会保険に未加入のまま低価格で受注する事業者が存在し、まじめに保険料を負担する企業ほど競争上不利になっていたためです。

この不均衡は技能労働者の処遇悪化を招き、若年層の入職離れという構造的な問題にもつながりました。国土交通省は平成25年から見積書への法定福利費の内訳明示を推進しており、令和2年10月1日からは社会保険への加入が建設業の許可・更新の要件になっています。

2025年(令和7年)12月12日には改正建設業法・入契法が全面施行されました。公共工事では、入札時に提出する入札金額の内訳に、材料費・労務費に加えて、法定福利費(事業主負担分)・安全衛生経費・建退共掛金を記載することになっています(入契法第12条)。民間工事を含む見積書についても、これらを内訳明示した材料費等記載見積書の作成が建設業者の努力義務になりました(建設業法第20条)。

建設業における法定福利費とは、単なる経理上の一項目ではありません。適正な施工体制と技能者の処遇を支える経費として位置づけられています。

福利厚生費との違い

法定福利費と混同されやすい費用に福利厚生費があります。両者の違いは、支払いが法律で義務づけられているかどうかです。

項目法定福利費福利厚生費
根拠健康保険法・厚生年金保険法など法律企業ごとの任意の制度
支払い義務ありなし(企業の裁量)
具体例健康保険料、厚生年金保険料、労災保険料など住宅手当、通勤手当、社員旅行の費用など

見積書で法定福利費を扱う際は、この違いを理解したうえで福利厚生費と混在させないことが重要です。両者を取り違えると、見積金額の根拠が曖昧になります。

法定福利費の対象となる保険の種類

法定福利費とは建設業の見積書で扱う社会保険料の総称で、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・労災保険料・子ども子育て拠出金の6種類で構成されます。それぞれ保険料率や負担割合が異なるため、種類ごとの仕組みを理解することが正確な見積作成の第一歩です。

ここでは2026年時点の最新料率をもとに、各保険料の算定基準と負担割合を整理します。

健康保険料・介護保険料

健康保険料は従業員の医療給付を支える保険料で、協会けんぽの場合は都道府県ごとに料率が異なります。令和8年度(2026年3月分から)の東京都の料率は9.85%で、前年度の9.91%から引き下げられました。

介護保険料は40歳から64歳までの従業員が対象となり、2026年度の料率は全国一律1.62%です。前年度の1.59%からわずかに引き上げられています。

いずれも労使折半のため、企業負担分は料率の半分になります。

項目2026年度の料率負担割合
健康保険料(協会けんぽ・東京都)9.85%労使折半
介護保険料(40〜64歳対象)1.62%労使折半

健康保険料は都道府県ごとに0.9ポイント以上の差があるため、見積書を作成する際は本社所在地の料率を必ず確認してください。

厚生年金保険料

厚生年金保険料は従業員の老齢年金や障害年金の原資となる保険料です。料率は平成29年9月以降18.3%で固定されており、2026年度も同じ水準が続いています。

企業と従業員がそれぞれ9.15%ずつ負担する労使折半の仕組みです。健康保険料のように毎年見直される料率ではないため、計算の際に古い数値と混同する心配はほとんどありません。

ただし標準報酬月額の等級区分は定期的に見直されるため、対象賃金の設定には注意が必要です。

雇用保険料

雇用保険料は失業給付や雇用継続の給付原資となる保険料で、業種ごとに料率が異なります。建設業は一般の事業より料率が高く設定されている点が特徴です。

2026年4月1日から2027年3月31日までの建設業の雇用保険料率は合計1.65%です。内訳は労働者負担0.60%、事業主負担1.05%で、事業主負担には雇用保険二事業分の0.45%が含まれます。

前年度の1.75%から0.1ポイント引き下げられ、引き下げ分は労使で0.05ポイントずつ折半されました。

  • 労働者負担:0.60%
  • 事業主負担:1.05%(うち雇用保険二事業分0.45%)
  • 合計料率:1.65%

雇用保険料は賃金総額を基準に計算するため、月々の支払賃金が変動すると保険料額も連動して変わります。

労災保険料

労災保険料は業務中や通勤中の事故に備える保険料で、全額を事業主が負担する点が他の保険料と大きく異なります。建設業は工事の種類ごとに細かく料率が分かれています。

2026年度の労災保険率は2025年度と同水準に据え置かれました。主な工事種別の料率は次のとおりです。

工事の種類労災保険率
建築事業9.5/1000
舗装工事業9/1000
鉄道又は軌道新設事業9/1000
道路新設事業11/1000
その他の建設事業15/1000
水力発電施設・ずい道等新設事業34/1000

見積書に労災保険料を計上する際は、対象工事がどの区分に該当するかを最初に確認してください。区分を誤ると保険料額が大きくずれる可能性があります。

子ども・子育て拠出金

子ども・子育て拠出金は児童手当などの財源となる拠出金で、厚生年金保険料と同様に標準報酬月額を基準に計算します。従業員負担はなく、全額を事業主が負担する仕組みです。

2026年度の拠出金率は1000分の3.6、率にして0.36%で、2020年度から据え置かれています。他の保険料に比べて料率は小さいものの、標準報酬月額全体に一律で課される点は変わりません。

なお2026年4月からは別制度として子ども・子育て支援金の徴収が始まり、健康保険料と合わせて労使折半で徴収されます。令和8年度の支援金率は0.23%で、事業主負担は0.115%です。国土交通省は令和8年3月23日付の事務連絡で、見積書に記載する法定福利費(事業主負担分)に子ども・子育て支援金を含めると整理しています。名称が似ているため、見積書では既存の拠出金と混同しないよう区別してください。

建設業における法定福利費の計算方法

建設業における法定福利費とは、労務費や工事費を基準にして算出する事業主負担分の社会保険料です。ここでは、国土交通省の「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」が示す2通りの計算方法(労務費を基準にする基本の方法と、工事費や工事数量を基準にする方法)と、計算時に陥りやすいミス、保険料率の最新動向を反映する必要性を解説します。

労務費を基準にした計算方法

労務費を基準にした計算方法は、工事に必要な人数と賃金から労務費総額を算出し、そこに法定保険料率を乗じる方法です。式にすると「法定福利費=労務費総額×法定保険料率」となり、国土交通省の作成手順はこれを基本的な算出方法としています。

法定福利費は本来、年間の賃金総額に各保険の保険料率を掛けて計算しますが、工事ごとの見積りで労働者の年間賃金を把握することはできません。そのため、見積額に計上した労務費を賃金とみなし、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料の事業主負担分の料率を掛けて、事業主負担分の法定福利費を求めます。

作成手順は、子ども・子育て拠出金(手順書の表記は児童手当拠出金)を厚生年金保険料に含めて計算しています。2026年4月分から徴収が始まった子ども・子育て支援金も、令和8年3月23日付の事務連絡により「労務費総額×支援金率×2分の1」で計算して法定福利費(事業主負担分)に含めます。一方で労災保険料は、作成手順が見積書で内訳明示する対象に含めていません。

計算要素内容
労務費総額工数×平均賃金で算出
合算する保険料率(事業主負担分)健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料(子ども・子育て拠出金含む)・雇用保険料・子ども・子育て支援金
作成手順で内訳明示の対象外の保険料労災保険料

この方法は保険料の内訳を明確にできるため、見積書に内訳明示を求められる場面と相性がよい計算方法です。

工事費や工事数量を基準にした計算方法

作成手順は、その他の算出方法として次の2つの式も示しています。

  • 法定福利費=工事費×工事費当たりの平均的な法定福利費の割合
  • 法定福利費=工事数量×数量当たりの平均的な法定福利費

自社の施工実績に基づくデータなどから、工事費に含まれる平均的な法定福利費の割合や、工事の数量当たりの平均的な法定福利費をあらかじめ算出しておき、個別の工事の法定福利費を簡便に求める方法です。

作成手順は、この方法を使うのは、ある程度定型化していて、工事費や数量の増減が労務費と比例している工事が適当だとしています。割合や数量当たりの額は国が一律に定めたものではなく、自社の実績から求める値です。

計算例:労務費1,000万円の場合(2026年度・東京都)

労務費を基準にした計算方法で、労務費1,000万円の工事の事業主負担額を計算すると次のとおりです。料率は国土交通省が示す「令和8年4月現在の各法定保険料率(東京)」によります。

保険の種類料率(全体)事業主負担の料率事業主負担額
雇用保険料(建設の事業)1.65%1.05%105,000円
健康保険料(協会けんぽ・東京都)9.85%4.925%492,500円
介護保険料(40〜64歳の割合を仮に50%とした場合)1.62%0.405%(0.81%×50%)40,500円
厚生年金保険料18.30%9.15%915,000円
子ども・子育て拠出金(全額事業主負担)0.36%0.36%36,000円
子ども・子育て支援金0.23%0.115%11,500円
合計—16.005%1,600,500円

検算すると、事業主負担の料率の合計は1.05%+4.925%+0.405%+9.15%+0.36%+0.115%=16.005%で、1,000万円×16.005%=1,600,500円です。

介護保険料の対象は40歳から64歳までの人だけです。国土交通省の作成手順は、介護保険料の算定に使う料率を「協会けんぽの介護保険料率×1/2(事業主負担)×加入率(40〜64歳の被保険者の割合)」とする考え方を示しています。この計算例では割合を仮に50%と置き、0.81%×50%=0.405%としました。

割合が変わると、合計の率も変わります。40〜64歳の人がいなければ介護保険料は0%で合計は15.6%(1,560,000円)、全員が40〜64歳なら0.81%で合計は16.41%(1,641,000円)です。協会けんぽの被保険者の年齢構成や自社の現場労働者の構成をもとに、割合を設定してください。

子ども・子育て支援金は2026年4月分から徴収が始まった制度で、令和8年3月23日付の国土交通省の事務連絡により、見積書に記載する法定福利費(事業主負担分)に含めます。労災保険料は、国土交通省の作成手順で見積書に内訳明示する対象に含まれていないため、この計算例には入れていません。労災保険料も法定福利費として明示する場合は、明示している範囲を見積書に書きます。

見積書に記載する場合は、次のように労務費と法定福利費を分けて書きます。

項目金額備考
労務費10,000,000円
法定福利費(事業主負担分)1,600,500円雇用保険1.05%・健康保険4.925%・介護保険0.405%・厚生年金9.15%・子ども・子育て拠出金0.36%・子ども・子育て支援金0.115%の計16.005%(2026年度・東京都、介護保険は40〜64歳の割合を仮に50%とした場合)

健康保険組合や建設国民健康保険に加入している場合、健康保険料率は協会けんぽと異なるため、加入先の料率に置き換えて計算してください。

計算でよくあるミスと注意点

法定福利費の計算では、保険料率の適用間違いが最も多いミスとして挙げられます。健康保険料や雇用保険料の料率は毎年度改定されるため、古い料率のまま計算を続けると実際の負担額とずれが生じます。

賞与を計算対象から漏らすミスも目立ちます。社会保険料は標準報酬月額だけでなく標準賞与額も基礎になるため、賞与支給のタイミングで計算漏れが起きやすくなります。

従業員の昇給や降給、入退社があった場合に標準報酬月額を更新しないまま計算するミスもあります。等級区分は定期的に見直されるため、対象賃金の設定を放置すると保険料額に誤差が積み重なります。

  • 保険料率を古い年度のまま使い続けている
  • 賞与や諸手当を労務費・対象賃金に含めていない
  • 標準報酬月額の等級変更を反映していない
  • 見積書への内訳表示を省略している
  • 労務費に対する保険料率の割合を単純に足し算せず、重複や漏れが生じている

こうしたミスは受注金額の過小見積もりにつながり、結果として赤字受注や下請けへのしわ寄せを招く原因になります。

保険料率の最新動向を反映する重要性

法定福利費の計算に使う保険料率は、年度ごとに改定されます。前のセクションで示した2026年度の料率のように、健康保険料や雇用保険料は毎年見直しの対象です。

古い料率を使い続けると、見積書に記載した法定福利費と実際の負担額に差が生まれます。差額が大きい場合、受注後に想定外のコスト増加を招き、経営を圧迫する要因にもなります。

計算例の料率も2026年度の値です。協会けんぽの健康保険料率は毎年3月分から、雇用保険料率は毎年4月1日から改定されるため、計算の都度、最新の料率を確認することが欠かせません。

料率の更新は毎年度発生する定例的な作業です。見積書作成の担当者が変わった場合でも、料率確認を業務フローに組み込んでおくことで、計算ミスや金額のずれを未然に防げます。

見積書への法定福利費の記載方法

見積書への法定福利費とは、建設業では労務費と分けて別枠で明示することがルール化されています。ここでは内訳明示が求められるようになった背景と、実際の記載手順、元請け・下請けそれぞれの注意点、記載を怠った場合のリスクを整理します。

見積書に内訳明示が求められる背景

見積書に法定福利費の内訳明示が求められる背景には、建設業界に長く根づいていた社会保険未加入問題があります。下請けの零細・中小企業を中心に、コスト削減を理由に健康保険や厚生年金への加入を怠る企業が少なくありませんでした。

国は平成25年に社会保険未加入対策推進協議会を開き、各専門工事業団体が作成する標準見積書の活用によって、法定福利費を内訳明示した見積書を下請企業から元請企業へ提出する取り組みを申し合わせました。これ以降、総額だけを示す見積書ではなく、法定福利費を独立した項目として記載する方式が業界標準になっています。

この取り組みの狙いは、就労環境の改善と若年入職者の確保です。法定福利費が労務費に埋もれたまま値引き交渉の対象になると、結果的に社会保険料の支払い原資が不足し、未加入状態が固定化してしまいます。

内訳を明示することで、法定福利費が交渉対象から外れ、適正な保険料負担が確保されやすくなります。

現在では、社会保険への加入が建設業の許可・更新の要件になっています。見積書での内訳明示は、単なる会計処理ではなく、保険料の原資を確保して加入を続けるための実務対応といえます。

見積書への記載手順

見積書へ法定福利費を記載する際は、国土交通省が示す標準見積書の考え方に沿って進めるとスムーズです。前項で解説した計算方法で求めた金額を、見積書上では独立した項目として明示することがポイントです。

記載手順は次のとおりです。

  1. 前項の計算方法(労務費基準または工事費基準)で法定福利費の金額を確定する
  2. 材料費・労務費・経費とは別に、法定福利費を独立した項目として見積書に記載する
  3. 下請企業へ発注する予定がある場合は、その分の法定福利費も含めて計上する

見積書の構成は、材料費、労務費、法定福利費を除く経費、小計、法定福利費という順で並べ、最後に合計を示す形式が一般的です。労災保険料は賃金総額を基準に算出するため、健康保険料などとは別に計上する企業も多く見られます。

消費税は法定福利費を含んだ金額に対して計算します。法定福利費だけを非課税として扱うと計算誤りにつながるため、見積書の最終行で税額を算出する際は注意が必要です。

元請け・下請けそれぞれの注意点

元請け側で注意したいのは、下請企業が内訳明示した法定福利費相当額を尊重する姿勢です。下請負人の見積書に法定福利費が明示されているにもかかわらず、これを一方的に削減したり、労務費や他の経費で調整して実質的に賄えない金額にしたりする行為は、建設業法違反となる可能性があります。

元請け側は、見積書の内訳を確認するだけでなく、契約金額の中に法定福利費相当額が実質的に確保されているかどうかを工事全体で見る必要があります。単価交渉の場面で法定福利費だけを値引き対象にしないという社内ルールを設けておくと、トラブルを避けやすくなります。

下請け側で注意したいのは、法定福利費を労務費に紛れ込ませず、必ず独立した項目として提示することです。総額のみを提示すると、元請け側が法定福利費分を認識できず、結果的に値引き交渉の対象にされてしまうおそれがあります。

下請け側はさらに、自社が別の協力会社へ再発注する場合、その協力会社の法定福利費も含めた金額を元請けへ提出する必要があります。工事の階層が深くなるほど、法定福利費の積み上げ漏れが発生しやすくなるため、発注先ごとに内訳を確認する体制を整えることが望まれます。

立場主な注意点
元請け内訳明示された法定福利費相当額を削減しない、単価交渉の対象にしない
下請け法定福利費を独立項目で明示する、再発注先の法定福利費も含めて計上する

記載を怠った場合のリスク

見積書に法定福利費の内訳を記載しなかったこと自体に、直接的な罰則はありません。改正建設業法第20条(令和7年12月12日施行)が定める材料費等記載見積書の作成は、建設業者の努力義務にとどまるためです。

ただし記載を怠ると、複数の実務リスクにつながります。まず、法定福利費が労務費に埋もれたまま総額提示になるため、元請けとの価格交渉で法定福利費相当額まで値引きされやすくなり、結果として社会保険料の支払い原資を自社で負担する事態を招きます。

次に、社会保険への加入は建設業の許可・更新の要件です。法定福利費を確保できないまま受注を続けると保険料の原資が不足し、加入を維持しにくくなります。

さらに、法定福利費を実質的に賄えない金額で契約を締結させる行為は、元請け側にとっても建設業法違反となる可能性があります。下請け側が内訳を明示していれば、こうした不当な減額に対して是正を求める根拠にもなります。

見積書への内訳明示を怠ることは、赤字受注や社会保険料の未払いという自社のリスクだけでなく、発注機会の喪失や取引先からの信用低下にもつながります。記載手順を業務フローに組み込み、担当者が変わっても継続できる体制を整えることが重要です。

まとめ:法定福利費とは、建設業の見積書に欠かせない社会保険料

法定福利費とは、建設業を含む企業が従業員のために負担する社会保険料等の事業主負担分です。健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料・労災保険料・子ども子育て拠出金の6種類で構成され、任意で選べる福利厚生費とは性質が異なります。

建設業では社会保険未加入のまま低価格で受注する事業者が長年の課題となり、見積書への内訳明示が業界標準として定着しました。2025年12月12日に全面施行された改正建設業法・入契法では、公共工事の入札金額の内訳に法定福利費(事業主負担分)を記載することになり、見積書での内訳明示も努力義務になっています。

保険料率は年度ごとに改定されるため、2026年度時点の最新料率を確認したうえで計算することが欠かせません。計算は労務費総額に法定保険料率を乗じる方法が基本で、2026年度・東京都(協会けんぽ)の料率なら、雇用保険・健康保険・介護保険・厚生年金・子ども・子育て拠出金・子ども・子育て支援金の事業主負担は労務費の16.005%です(介護保険の対象となる40〜64歳の割合を仮に50%とした場合)。

見積書では材料費・労務費と法定福利費を分けて記載し、元請けは下請けが明示した金額を値引き対象にしないことが求められます。下請け側も再発注先の分まで含めて金額を積み上げる必要があり、これを怠ると赤字受注につながります。

本記事のポイント

  • 法定福利費とは健康保険料・厚生年金保険料など6種類の社会保険料の事業主負担分で、福利厚生費とは異なり支払いが義務づけられている
  • 保険料率は年度ごとに改定されるため、2026年度の最新料率を確認したうえで労務費基準または工事費基準で計算する
  • 見積書では法定福利費を独立した項目として明示し、元請け・下請けの双方が値引き対象にせず適正に積み上げる

法定福利費への理解を深めることで、見積書の作成精度が上がり、赤字受注や社会保険未加入のリスクを避けられます。建設業の制度改正や現場DXの新着記事は、メルマガでお知らせしています。実務で使える早見表や記入例は、お役立ち資料から無料でダウンロードできます。

建設業の法定福利費に関するよくある質問

参考文献

  1. 法定福利費を内訳明示した見積書について(国土交通省)
  2. 法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順(国土交通省)
  3. 材料費等記載見積書における「子ども・子育て支援金」の取扱いについて 令和8年3月23日事務連絡(国土交通省)
  4. 令和8年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表 東京支部(全国健康保険協会)
  5. 令和8年度保険料率のお知らせ(全国健康保険協会)
  6. 雇用保険料率のご案内(厚生労働省)
  7. 社会保険加入対策・法定福利費の確保(国土交通省)令和8年4月現在の各法定保険料率(東京)
  8. 厚生年金保険料額表(日本年金機構)
  9. 子ども・子育て支援金制度(こども家庭庁)
  10. 改正建設業法「令和7年12月施行分」説明会資料(令和8年1月)(国土交通省)

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